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東京高等裁判所 昭和56年(行ケ)47号 判決

一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本件発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

1 成立に争いのない甲番四号証(本件発明の特許審判請求公告)によれば、

「割出し自在の切削インサートを有して、九〇度の肩壁すなわち角形肩を中ぐりつまりフライス加工するのに用いられるバイト」において、「角形インサートが包囲端壁を中ぐりあるいは旋削するのに用いられるとき、そしてこのインサートの切削縁がバイトあるいは加工材の中心線上にありあるいはバイトの振動を防止するのに十分な距離だけ前方にあるとき、アキシヤルレーキを設けてもこれの後方上部および外方の隅部は側壁と干渉してしまう。環状の内方側壁を中ぐりするとき、ラジアルレーキを設けても必ず下側の内方隅部は端壁と干渉し、そしてもしこれがくぼまされて端壁隙間を形成するとき切削縁は角形肩壁を切削する回転面を横切る。

従つて、包囲された九〇度の肩部を切削するに際しては、切削縁とそれに隣接する肩壁間に九〇度より小さい開先角度を有するインサートを用いることが必要である。」(本件明細書の発明の詳細な説明の項第一頁右欄第一〇行ないし第二頁左欄第一八行)。

本件発明は、「包囲型側壁内に角形肩部を切削するのに用いられる角形切削インサートを用いることに関し、より詳細にはこれを可能とするようなインサートの幾何学構成」(同第二頁左欄第二七行ないし第三〇行)を技術的課題とし、これを解決するため前記本件発明の要旨に記載の構成を採用したものであつて、

本件明細書には、本件発明の特徴及び作用効果について、「九〇度の肩壁を形成するための肩壁カツタは、複数のまつすぐな切削縁を有する角形の切削インサートと、回転させつつ直径方向に送るための回転ホルダとより成り、前記インサートは前記ホルダ内に取付けられ、この切削インサートの一つの隅部は二つの切削縁によつて形成され、各切削縁は前記隅部を通る軸方向面に対して傾斜していることを特徴と」(同第二頁左欄第三一行ないし第三八行)し、「中ぐりバイトにおいて、角形インサートのリードは零であり負のラジアルレーキを有する。すなわちそれの切削縁はバイトの半径方向中心線の前方に離隔するよう平行に位置するからであり、より簡単に云えばバイトの振動を防止するためであり、これは側壁隙間を提供するアキシヤルレーキを形成するに十分なものである。インサートの切削側壁縁の突出部がインサートの切削隅を通る軸方向面上にあることは、切削隅部における開先角度が九〇度以下であり、従つて角形側壁が切削され得ることを示している。

フライス加工するため、角形インサートはバイトの半径方向中心線の前方に位置するものと似ている端壁を有し、且つこの実施例においてはアキシヤルレーキな後退レーキを有する。しかし側壁切削縁は、角形の肩側壁を切削するため回転面に対して直角に置かれることによりリードは零になされ、かくて下方の内隅部は上昇し後に引かれてラジアルレーキーと端壁隙間を形成する。前述したように、切削隅部を通る軸方面上におけるインサートの切削および加工材壁縁の突出部によつて、角形肩壁を形成するのに必要な九〇度以下の効果的な開先角度が形成される。

内端つまり包囲形側壁を回転させて、角形インサートを用いて角形肩部を形成することにより、中ぐりおよびフライス削りのそれぞれに同じ形状のインサートを用いることが出来る。」(同第二頁左欄第三九行ないし右欄第二一行)旨の記述があることが認められる。

2 (1) 前掲甲第四号証によると、本件発明は、九〇度の肩壁を形成するための切削用カツタにおいて、中ぐり加工とフライス加工についての二つの実施例を包含するものであり、本件発明の特許審判請求公告の図面のうち、Fig. 1~6(別紙図面(1)参照)が中ぐり加工についての実施例(第一実施例)に関するものであり、Fig. 7~12(別紙図面(1)参照)がフライス加工についての実施例(第二実施例)に関するものであることが認められる。

(2) ところで、第一、第二引用例に審決が認定した事項が記載されていること及び本件発明と第一引用例記載の発明との間に審決認定の一致点、相違点が存することは、原告においても認めるところであり、また、審決が、本件発明と第一引用例記載の発明との間の相違点<1>について判断するに当たり、「第二引用例記載のものにおいては、(中略)側壁切削縁は、角形の肩側壁を切削するための回転面を形成する矩形の辺にほぼ一致して置かれることになり、リード角はほぼ零である。」とした認定も、原告の認めるところである。

3(1) 原告は、審決が第二引用例記載のものとの対比において、「側壁切削縁について、本件発明に関する第二実施例をみると、その側壁切削縁は、角形の肩側壁を切削するための回転面を形成する矩形の辺に近似的に一致させて置かれており、リード角は近似的に零となつている。つまり、本件発明における『零のリード角で位置ずける』との記載は、近似的零を含む『零』と解釈される。」と認定、判断したのは誤りであると主張するので、以下に検討する。

(2) 前掲甲第四号証によれば、本件発明の、「零のリード角で位置ずける」との要件に関し、本件明細書の発明の詳細な説明の項において、第一実施例である「中ぐりバイトにおいて、角形インサートのリードは零であり」(第二頁左欄第三九行ないし第四〇行)との記載、並びに第二実施例であるフライス工具において、「側壁切削縁は、角形の肩側壁を切削するため回転面に対して直角に置かれることによりリードは零になされ」(第二頁右欄第九行ないし第一一行)との記載、「実施例において、角形インサートの切削縁は切削される肩壁に対して零のリードを有し、」(第二頁右欄第二二行ないし第二三行)との記載、及び「側壁が切削されているので、形成される肩部側壁の面上に置かれたインサートの側壁切削縁90を設けることによりインサートのリードは零になされる。」(第三頁右欄第二七行ないし第三〇行)との記載があることが認められる。

これらの記載及びその他前掲甲第四号証によつて認められる本件明細書の発明の詳細な説明の項の第一、第二実施例に関する記載を総合すると、「零のリード角で位置ずける」という要件は、中ぐり加工の場合は、中ぐりバイトの回転軸に直角な平面、すなわち被加工材の角形肩状端壁36にインサート26の端壁切削縁46の全部の縁が位置している状態(別紙図面(1)のFig. 6参照)を意味し、フライス加工の場合は、被加工材の端壁面84に対して九〇度の角度で位置する肩壁86にインサート74の側壁切削縁90の全部の縁が位置している状態(別紙図面(1)のFig. 11参照)を意味するものというべきである。

(3) ところで、前掲甲第四号証によると、本件明細書の発明の詳細な説明の項第三頁右欄第三三行ないし第三六行に、フライス加工の場合、「第7図におけるインサートの側壁切削縁90は比較的短かい弦の線をなし、これの両端はバイトの軸方向中心線から大体等しい距離だけ離れている。」との記載があることが認められる。この記載における「弦の線」とは、側壁切削縁が円の弧を成す肩壁に対し弦の関係にあることを意味するところ、この側壁切削縁によつて切削される肩壁は、九〇度の垂直な面とはならず、突出した円弧面となることは、原告も認めて争わないところである。

そして、本件明細書の発明の詳細な説明の項の右記載にあるように、「インサートの側壁切削縁90(中略)両端はバイトの軸方向中心線から大体等しい距離だけ離れて」いても、側壁切削縁の長さより短い肩壁を切削する通常の使用態様では、肩壁に弦の線が傾斜している円弧面が形成されるのであり、したがつて、この場合には、切削された肩壁が円弧面となるのみならず、弦の線自体も、正確な九〇度の肩壁に接するものとはならない。

そうすると、本件発明のフライス加工の実施例において、側壁切削縁は、九〇度の肩壁に対しては、正確な零のリード角で位置づけられていないものといわざるを得ない。

(4) 原告は、インサートの側壁切削縁によつて切削される前記円弧面は、その半径が非常に大きいため、平面と認めても差し支えなく、したがつて、九〇度の肩壁は円弧面を含む旨主張する。しかし、本件発明は、九〇度の肩壁を形成することを目的とする肩壁切削用カツタに関するものであるから、形成される肩壁の角度及び形状を正確に論じるべきものであつて、原告の右主張は理由がない。

(5) また、原告は、本件発明に係るカツタの構成自体においては、インサートは「零のリード角」で位置づけられており、九〇度の肩壁が円弧面を形成することは切削加工の結果であるから、カツタの構成自体と加工された肩壁の面の形状とは同一に論じることはできないと主張するが、リード角零ということは、所望の範囲を切削加工するカツタの全作動過程にわたつてリード角が零で位置づけられなければならないはずのものであるところ、本件発明のフライス加工についての実施例において、九〇度の肩壁が円弧面を形成するとされていることは、本件発明の構成が、インサートの側壁切削縁が完全に零ではなく、ほぼ零のリード角で位置づけられる状態が生起、継続する場合を包含するものと解されること上来説示したとおりであるから、原告の前記主張は失当というべきである。

してみれば、審決がフライス加工についての第二実施例におけるインサートの側壁切削縁のリード角は近似的に零となつており、本件発明における「零のリード角で位置ずける」との要件は近似的零を含む『零』と解釈されるとした認定、判断には何ら誤りはない。

4 それゆえ、右認定、判断の誤りがあることを前提に審決の違法をいう原告の主張は、その前提自体において失当であるから、その余の点について審究するまでもなく採用することができない。

三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却することとする。

〔編註その一〕 本件発明の要旨は左のとおりである。

複数のまつすぐな切削縁を有する四角形の割出し可能な正レーキ切削インサートを用いて九〇度の肩壁を形成するための、一体に構成されたホルダと該ホルダにインサートを取付けるための取付け手段とを包含する肩壁切削用カツタにおいて、インサート取付け手段が四角形インサートを零のリード角で位置ずけるようになつており、そして切削隅部に近接する切削縁が該切削隅部を通る軸方向面の相対する両側に位置していることを特徴とする前記肩壁切削用カツタ。

(別紙図面(1)参照)

〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。

別紙図面(一)

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(以下省略)

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